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地方自治法



■地方自治の歴史

1、明治時代から終戦まで:明治憲法には地方自治に関する条文はなく、法律で定められているだけだった。終戦まで、地方は国の政策の執行機関としての役割が強く、国が上で、地方が下という関係だった。

2、戦後の憲法改正時:第二次世界大戦後に作られた新憲法では地方自治に関する条文が作られたが、国が上で、地方が下という関係は依然として変わらなかった。

3、1999年の地方自治法改正時:1995年の地方分権推進法に基づき1999年に地方自治法の大改正がなされ、国と地方は同格で対等なものとして扱われることとなった。国の役割は国際社会における国家としての存立に関わる事務、全国的に統一して定めることが望ましい事柄に関する事務、全国的な規模や視点に立った事業を実施することなどとされている。一方地方の役割は住民の福祉の増進、地域の行政を自主的かつ総合的に実施することなどとされている。つまり、国は国全体としてすべきことをし、地方のことは地方に任せるということ。しかし、財政面において、地方は自立しておらず国に頼らなければならない現状が残っている。

■地方自治

1、地方自治:国の各地方が、各地方に関しての政治は自分たちで自由に行うことを地方自治といい、地方公共団体の組織や運営方法について書かれた法律を地方自治法という。

■地方公共団体

1、地方公共団体:地方公共団体には自治権と法人としての人格が与えられ、様々な取引ができる。大きく分けて、普通地方公共団体と特別地方公共団体の2種類がある。

2、普通地方公共団体:都道府県や市町村のことを普通地方公共団体という。地方自治法において都道府県と市町村は対等なものとして扱われる。

3、特別地方公共団体:特別な事情によって設立された地方公共団体を特別地方公共団体という。4種類あるが、代表的なものに特別区(東京23区のこと)がある。

4、地方公共団体の事務:地方公共団体の事務は大きく分けて、自治事務と法定受託事務の2種類がある。

5、自治事務:地方公共団体がやらなければならない事務のうち法定受託事務を除いた事務のことを自治事務という。

6、法定受託事務:地方公共団体が誰かから受託(頼まれること)して行う事務のことを法定受託事務といい、大きく分けて2種類ある。国が本来やるべき事務で都道府県や市町村や特別区が処理することとなっている第1号法定受託事務(国→都道府県、市町村、特別区)と、都道府県が本来やるべき事務で市町村や特別区が処理することとなっている第2号法定受託事務(都道府県→市町村、特別区)の二つである。

■地方公共団体の住民

1、住民:市町村の中に住所がある人間は、その市町村の住民、その市町村がある都道府県の住民になる。

2、住民の権利と義務:住民には税金を納める義務があり、参政権や直接請求などの権利を持つ。

3、参政権:政治に参加する権利のことを参政権といい、選挙権と被選挙権がある。

4、選挙権:議員などを選ぶときに投票することができる権利のことを選挙権という。ある市町村に3ヶ月以上住み(住所要件という)、満20歳以上であれば、その市町村の長(市長などのこと)と議員、その市町村がある都道府県の長(知事のこと)と議員を選ぶ選挙権がもらえる

5、被選挙権:議員などに立候補できる権利のことを被選挙権という。ある市町村に3ヶ月以上住み(住所要件という)、満25歳以上であればその市町村とその市町村がある都道府県の議員の被選挙権をもらうことができる満30歳以上であれば全国の都道府県の長、満25歳以上であれば全市町村の長の被選挙権をもらうことができる。都道府県と市町村の長については住所要件は不要である。つまり、全国から優秀な人材を集める狙いがある。

6、直接請求:有権者(選挙権を持つ人のこと)の署名を集め、普通地方公共団体の機関に一定の行動を請求することを直接請求という。必要な署名数などは下の表を参照。事務の監査請求は有権者の50分の1の署名を集め直接請求すれば監査が実施されるが、それ以外については直接請求された後に投票など新たな手続きが必要である。


■自治立法権

1、自治立法権:普通地方公共団体は法令(法律や命令のこと)に違反しない範囲で独自の条例や規則を制定することができる。これを自治立法権という。

2、条例:普通地方公共団体の議会が制定する決まりのことを条例という。発案権は長と議会の議員にある。違反した者に対しては過料と2年以下の懲役などの刑罰を科すことができる。

3、規則:普通地方公共団体のが制定する決まりのことを規則という。違反した者に対しては過料だけを科すことができる。

■議決機関(議会)

1、機関:地方公共団体は法人であり自然人ではないので代わりに動く自然人が必要である。その自然人や集合のことを機関といい、議決機関、執行機関、補助機関の3つがある。

2、議決機関:議決機関とは議会のことで、地方自治法に定めてある事柄について議決を行う。

3、議会:普通地方公共団体には住民の代表である議員で構成される議会を設置しなければならい。しかし人口が少ない町や村に関しては有権者全員を集める町村総会であっても良いことになっている。

4、議会の招集:議会を招集する権限は普通地方公共団体の長が持つ。ただし、議員定数の4分の1以上から請求があれば長は議会を招集しなければならない

5、会議:会議には決まって開かれる定例会と必要に応じて開かれる臨時会がある。定例会は年に4回以内で条例で定められた回数開かれる

6、会議の原則:会議には以下の(1)〜(4)のような決まりがある。(1)会議は公開されることが原則である(会議公開の原則という)。ただし議長または議員3人以上の発議があり、出席議員の3分の2以上の賛成があれば秘密会(公開しないこと)として会議を行える。(2)何かを決めるときは出席議員の過半数の賛成があれば成立する(過半数議決の原則という)。賛成と反対が同数の場合は議長が決める。(3)会期中に決まらなかった案件は後会(次の会議)で継続して検討することはない(会期不継続の原則という)。(4)何かの議決を行うときに必要な出席議員の数(定足数)は半数以上必要である。

7、議員:議員の任期は4年である。国会議員、地方公共団体の議員、地方公共団体の常勤職員との兼職は禁止されている。ただし、地方公共団体の非常勤職員との兼職は可能である。

8、議長と副議長:議会をまとめて仕切る者を議長と副議長という。議会は議長と副議長を各1名選ばなければならない。議長と副議長が辞職する場合、原則として議会の許可が必要である。つまり会期中にしか辞職できない。ただし、副議長については閉会中でも議長の許可があれば辞職できる

9、議案:会議に出す案を議案という。議案は長と議員に出す権利があるが、議員が出す場合は議員定数の12分の1以上の賛成が必要である。予算案については長のみ出すことができる

10、請願:議員1人の紹介があれば議会に対して請願(お願いのこと)することができる。

■執行機関(長、委員会・委員)

1、機関:地方公共団体は法人であり自然人ではないので代わりに動く自然人が必要である。その自然人や集合のことを機関といい、議決機関、執行機関、補助機関の3つがある。

2、執行機関:執行機関とは長(都道府県知事、市町村長のこと)や委員会・委員のことで、普通地方公共団体の事務を自分の判断と責任において管理、執行できる。

3、長(都道府県知事、市町村長):長は選挙によって選ばれ、任期は4年である。長には普通地方公共団体の事務を自分の判断と責任において管理、執行できるという強い権限が与えられている。国会議員、地方公共団体の議員、地方公共団体の常勤職員との兼職は禁止されている。ただし、地方公共団体の非常勤職員との兼職は可能である

4、委員会・委員:委員会・委員は専門分野について長と同じように(長にだけ強い権限が集中するのを防ぐため)、普通地方公共団体の事務を自分の判断と責任において管理、執行できる権限を持つ。委員会は合議制が原則であり、規則を制定する権限が認められている。ただし、監査委員だけは独任制であり、規則を制定することはできない。地方公共団体には必ず置かなければならない委員会・委員が決まっている。下の表を参照。



■補助機関

1、機関:地方公共団体は法人であり自然人ではないので代わりに動く自然人が必要である。その自然人や集合のことを機関といい、議決機関、執行機関、補助機関の3つがある。

2、補助機関:補助機関とは副知事や助役などのことで、執行機関を補助する役割がある。

3、副知事、助役:都道府県に置かれるのが副知事、市町村に置かれるのが助役で、どちらも長に次ぐナンバー2である。原則として1人置かれるが、条例により置かないことや人数を増やすことができる。副知事、助役は議会の同意により選ばれる。副知事、助役とも任期は4年で、任期中でも議会の同意を得ずに長の権限だけで解職することができる

4、出納長、収入役:都道府県に置かれるのが出納長、市町村に置かれるのが収入役で、どちらもお金に関する仕事をする。都道府県は出納長を、市は収入役を必ず置かなければならない。しかし、町村は条例により収入役をおかずに町村長または助役が代わりに担当しても良いことになっている。出納長、収入役は議会の同意により選ばれる。出納長、収入役とも任期は4年であり、任期中において長は出納長、収入役を解職することはできない

■長と議会

1、長と議会:長(執行機関)と議会(議決機関)は互いに独立し、対等関係にあり、お互いの考えが食い違ったときにはいくつかの方法で解決することになっている。

2、一般的拒否権(長の権限):議会の議決した条例の制定や改廃、予算について長が賛成したくない場合、長は議決の連絡を受けた日から10日以内に理由を示した上で、再議決をさせることができる。これを一般的拒否権という。

3、特別的拒否権(長の権限):議会の議決または選挙が違法と認めるときは、長は再議決をするか再選挙を行わせなければならない。収支に関して議会で議決されたものが執行できないときにも長は再議決をさせなければならない。これらを特別的拒否権という。

4、専決処分(長の権限):議会が成立せず(定足数に満たないときなど)、議会で何も決めることができないときなどは、長が議会の代わりに決めることができる。これを専決処分という。ただし、長は次の議会で決めたことを報告し、承認をもらわなければならない

5、不信任議決(議会の権限):議会は長を辞めさせることができる。これを不信任議決という。これには3分の2以上の議員が出席し、その4分の3以上の賛成が必要である。不信任議決をされた長は10日以内に議会を解散するか辞職するかを選択しなければならない。もし、長が議会を解散した場合、議員を選ぶための再選挙が行われる。そして新たに招集された議会でもう一度、不信任議決がされた場合は長は職を失う(3分の2以上の議員が出席し、その過半数の賛成が必要)。

■財務

1、財務:地方公共団体はお金を管理(財務)する権限を持つ。

2、会計年度:お金を管理する上で区切りとなる期間を会計年度といい、毎年4月1日からはじまり3月31日でしめられる

3、区分:会計は大きく分けて、一般会計と特別会計に分けられる。一般会計とは地方公共団体なら必ず発生する収入や支出の会計のことで、特別会計とは特別に何かをするときに発生する収入や支出の会計のこと。全ての市町村では介護保険を実施しているが、これは特別会計に当たる。

4、公金:地方公共団体が管理するお金を公金といい、都道府県と市町村ではルールが違う。都道府県は金融機関を指定して公金を管理しなければならないが、市町村は市町村自身が管理しても金融機関に管理させてもどちらでも良いことになっている

5、財務監査:地方公共団体の財務を監督検査することを財務監査という。地方公共団体の人間である監査委員によるものと外部の人間である外部監査人が行うものの2種類がある。

6、監査委員の監査:監査委員による監査は毎年一回以上行われる定例監査と必要なときに行われる臨時監査がある。

7、外部監査人の監査:外部の人間と外部監査契約を結び監査を行うことを外部監査という。外部監査人には、弁護士、公認会計士、税理士、地方公共団体の監査に関する実務に精通した者の4種類の人間だけなることができる。外部監査には包括外部監査と個別外部監査の2種類がある。

8、包括外部監査:財務の全体を監査することを包括外部監査という。都道府県、政令指定都市、中核市は必ず行わなければならない。その他の市町村は条例で定めれば行うことができる

9、個別外部監査:財務の一定部分だけを監査することを個別外部監査という。長や議会などから要求があった場合に、条例で定めれば行うことができる。

■関与

1、関与:国が都道府県や市町村に対して、都道府県が市町村に対して、助言、勧告、資料の提出要求などをすることを関与という。国、都道府県、市町村は地方自治法上、対等な関係にあるので、関与方法に関してはルールがある。

2、関与の法定主義:法律などで決まっていることでなければ関与してはいけないことを関与の法定主義という。

3、関与の基本原則:国や都道府県は関与する場合、必要最小限にし、関与先の自主性、自立性について配慮しなければならない。これを関与の基本原則という。

4、不服:関与された地方公共団体は、不満があるとき関与方法について不服を申しでることができる。国が関与することについては国地方係争処理委員会、都道府県が関与することについては自治紛争処理委員に不服を申しでて、審査してもらえる。

■政令指定都市、中核市、特例市

1、政令指定都市:都道府県がやることとされている事柄の一部を処理できる規模の大きな市のことを政令指定都市という。政令指定都市になるためには、(1)人口が50万人以上であること、(2)政令で指定されることの条件がある。今現在、大阪市、横浜市、名古屋市、札幌市など13の都市が指定されている。

2、中核市:政令指定都市がやることとされている事柄の一部を処理できる比較的規模の大きな市のことを中核市という。中核市になるためには、(1)人口が30万人以上であること、(2)面積が100平方キロメートル以上であること(人口が50万人未満の場合)、(3)政令で指定されることの条件がある

3、特例市:中核市がやることとされている事柄の一部を処理できる中核市よりも規模の小さな市のことを特例市という。特例市になるためには、(1)人口が20万人以上であること、(2)政令で指定されることの条件がある

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